「大手百貨店、1万円台の婦人靴など自社PB商品を相次ぎ投入」「専門店やECサイトの台頭に対抗、独自調達網による収益性改善を模索」

2016年6月17日の報道概要

 三越伊勢丹やそごう・西武など大手百貨店各社が、自社で企画・開発するプライベートブランド(PB)商品の強化に乗り出している。婦人靴や衣料品を中心に、1万円台前後の価格帯の商品を拡充し、価格と品質の両立を訴求する方針だ。

 百貨店業界は近年、専門店やファストファッションブランド、インターネット通販の台頭により厳しい競争環境に置かれている。従来のように有名ブランドの商品を並べるだけでは差別化が難しくなり、各社は独自商品の開発によって収益力の向上と顧客の囲い込みを図ろうとしている。

 PB商品は中間流通を省くことで価格を抑えながら、百貨店ならではの品質管理や接客力を活かせる点が特徴だ。特に品質にはこだわりたい一方で、高額商品には慎重な消費者の需要を取り込む狙いがある。今後、PB商品の成否が百貨店再生の鍵を握る可能性もあり、その動向に注目が集まっている。

2016年6月当時の背景

当時の百貨店業界は、訪日外国人による「爆買い」に支えられていた一方で、国内市場では長期的な顧客離れという深刻な課題を抱えていました。特に若い世代の女性たちは、百貨店よりも駅ビルの専門店や急成長するネット通販を利用するようになり、かつて百貨店が担っていたファッション消費の中心的な地位は揺らぎ始めていました。

消費者の価値観も変化していました。品質にはこだわりたいものの、ブランド名だけに高い価格を支払うことには慎重になり、手頃な価格で流行を楽しめる商品が支持を集めていたのです。こうした中、百貨店各社は従来の「ブランドに売場を貸す」ビジネスモデルだけでは競争に勝てなくなり、自ら商品を企画・開発するプライベートブランドの強化へと舵を切り始めた時代でした。

2016年現在の状況

観測から10年が経過した現在、百貨店各社が進めた「手頃な価格のプライベートブランドによる中間層の取り込み」は、業界全体を再生する決定打にはなりませんでした。低価格帯の商品市場では、ユニクロやGU、さらにはEC専業企業が圧倒的な商品開発力や価格競争力を発揮し、百貨店が優位性を築くことは難しかったのです。

その後、人口減少や消費行動の変化によって地方や郊外の百貨店は相次いで閉店し、業界は大きな転換点を迎えました。一方で、都市部に残った有力百貨店は異なる道を選びました。日常着や生活必需品で幅広い顧客を集めるのではなく、高級ブランドや外商サービス、富裕層向けの体験価値を提供する方向へと経営資源を集中させたのです。

結果として、百貨店はかつての「誰もが利用する総合小売店」から、「特別な商品やサービスを求める人のための場所」へと性格を変えました。2016年に模索された大衆路線よりも、むしろ高級路線への回帰こそが、生き残った百貨店の現実的な選択となっています。

PB(プライベートブランド)の成功と失敗

PB(プライベートブランド)戦略の成功例としては、セブン‐イレブン・ジャパンの「セブンプレミアム」や、イオンの「トップバリュ」、良品計画の「無印良品」が挙げられます。これらは大量販売によるコスト削減だけでなく、「この店でしか買えない品質や価値」を提供したことが成功要因でした。特にコンビニは店舗網を活かし、メーカー品との差別化に成功しました。

一方、失敗例としては百貨店各社の衣料品PBや、一部スーパーの低価格PBが挙げられます。品質や価格でユニクロや専門メーカーに勝てず、「なぜその店のPBを選ぶのか」という理由を示せませんでした。

成功と失敗を分けたのは、単なる中間マージン削減ではなく、「価格以外の独自価値」を作れたかどうかです。PBは安ければ売れるのではなく、その企業ならではの強みやブランドへの信頼と結び付いた時に初めて競争力を持つのです。

10年後の未来

2016年当時、多くの百貨店はプライベートブランド(PB)の強化に活路を見出しました。販売の最前線に立つ自分たちこそが顧客のニーズを最も理解している。だから自ら商品を企画・開発すれば、より良いものを適正価格で提供できる。そう考えるのは極めて合理的な判断に見えました。

しかし、10年後の現在から振り返ると、百貨店が見誤ったのは価格や品質ではなく、「信頼の種類」だったのかもしれません。顧客は百貨店に対して、商品を作る能力を期待していたのではなく、数あるブランドの中から良いものを選び抜く目利きとしての役割を期待していました。作る信頼と売る信頼は似ているようで全く別のものだったのです。

これは百貨店に限った話ではありません。凄腕の営業マン自ら設計した自動車を買いたいと思う人が一体どれだけいるでしょうか。インフルエンサー、スポーツ選手、学者、経営者など、特定の分野で勝ち得た信頼が他の分野でもそのまま通用すると考え、失敗した例が多々あります。その最もわかりやすい例が、土地取引のプロの自分なら24時間でロシアウクライナ戦争を止められると思ったアメリカの「凄腕の不動産ディーラー」でしょうか。

百貨店の高級路線への回帰は、自らの信頼の範囲を再認識した結果かもしれません。