「『アベノミクスの成長戦略の目玉』 目安を大きく上回る全国平均823円への引き上げ」「全都道府県で20円以上上昇 政府の賃上げ方針を反映、中小企業には負担も」
2016年8月12日の報道概要
厚生労働省の中央最低賃金審議会は12日、2016年度の地域別最低賃金について、全国平均で前年度比25円引き上げ、時給823円とする目安を決定した。引き上げ額は現行制度となった2002年度以降で最大となり、全47都道府県で20円以上の引き上げとなる。
今回の改定は、政府が掲げる「年3%程度」の最低賃金引き上げ方針を踏まえたもので、デフレ脱却や個人消費の拡大を後押しする狙いがある。各都道府県の地方審議会がこの目安を参考に地域ごとの最低賃金を決定し、順次適用される見通しだ。
一方、労働者側は生活水準の向上につながるとして評価する一方、経営者側からは、人件費の増加による中小企業への影響を懸念する声も上がっている。最低賃金の引き上げが、地域経済や雇用環境にどのような影響を及ぼすか、今後の動向が注目されている。
2016年8月当時の背景
2016年当時、日本経済はアベノミクスによって企業収益や雇用環境の改善が進み、有効求人倍率はバブル期以来の高水準となるなど、人手不足が鮮明になっていました。一方で、賃金の伸びは物価上昇に追いつかず、「景気回復を家計へ波及させること」が大きな課題となっていました。政府は「経済の好循環」を実現するため、最低賃金を毎年3%程度引き上げ、将来的に全国平均1,000円を目指す方針を掲げていました。
こうした中、2016年度の最低賃金は全国加重平均で25円引き上げられ、時給823円となりました。25円の引き上げは、時給表示となった2002年度以降で最大となり、全47都道府県で20円以上の引き上げが実施されました。東京都は932円、大阪府は883円となる一方、最低額の宮崎県と沖縄県でも714円まで引き上げられ、地域間格差の縮小も意識した引き上げとなりました。
しかしその一方で、地方や中小企業からは、人件費の急増による経営への影響を懸念する声も相次ぎました。最低賃金の引き上げは、労働者の生活向上と企業の負担という二つの課題の間で、社会全体のバランスが問われる政策として、大きな注目を集めていました。
2026年現在の状況
2026年現在、最低賃金は2016年当時とは比較にならないペースで引き上げられています。2016年度に全国加重平均823円だった最低賃金は、2025年度には1,121円となり、この10年間で約36%上昇しました。政府はさらに2020年代中に全国平均1,500円を目指す方針を掲げており、最低賃金は「低所得者の生活を守る制度」から、「賃上げを促す経済政策」の柱へと位置付けが変わりつつあります。
しかし、最低賃金の引き上げをめぐる議論は今も続いています。人手不足を背景に賃上げの必要性を訴える声がある一方、地方や中小企業からは、人件費の増加が経営を圧迫するとの懸念も根強くあります。さらに、賃金は上昇しているものの、物価上昇がそれを上回る場面も多く、実質賃金は伸び悩む状況が続いています。
温泉の湯口の熱さ
2016年当時、日本経済は企業収益が改善し、人手不足も深刻化していました。本来であれば、人材を確保するために企業が賃金を引き上げ、市場の力だけで賃上げが広がっていくはずです。それなのに、なぜ政府は過去最大規模となる最低賃金の引き上げに力を入れたのでしょうか。
その理由は、人手不足や企業収益の改善が、賃金の上昇として日本全体へ均等には広がっていなかったからでしょう。温泉で湯口の近くは熱くても、離れた場所はぬるいままなのと同じように、都市部や一部の業種では賃金が上昇する一方、地方や中小企業では、その恩恵が十分に行き渡っていませんでした。
最低賃金の引き上げは、お湯をさらに注ぎ足す政策ではなく、湯口から注がれるお湯をかき混ぜて、全体の温度を均一に近づけようとする政策だったとも言えます。市場に任せるだけでは広がらない賃上げを、最低賃金という制度で日本全体へ波及させようとした――。2016年のニュースは、そんな政府の狙いを映し出した出来事でもありました。
10年後の未来
2016年当時、日本政府は企業業績の改善や人手不足を背景に、最低賃金の大幅な引き上げを進めました。市場に任せていても賃金は上がるはずの局面でしたが、その上がり方には地域や業種によって大きな差があると考え、最低賃金という制度を通じて、日本全体へ賃上げを広げようとしたのです。
ちなみに、アメリカでは州ごとに最低賃金は引き上げられていますが、国全体の基準となる連邦最低賃金は時給7.25ドルのまま、2009年以来17年以上据え置かれています。それでも企業収益の拡大や人手不足を背景に、市場原理によって賃金は上昇し、市場原理によって賃金は上昇し、高所得者はさらに高所得になりました。一方で、地域や業種、所得による格差も大きく広がっています。
日本とアメリカの湯舟のどちらがより快適かはわかりませんが、少なくともお湯の混ぜ方は大きく異なります。市場の力をどこまで信じ、どこまで制度で支えるのか――。最低賃金政策は、その国の経済や公平さに対する考え方そのものを映し出す制度なのかもしれません。
