「『和食ブームを追い風に』 国産農産物の輸出ブランド化、産官学で加速へ」「『成長産業化への挑戦』 農産物輸出からみる地方農業の未来」

2016年7月21日の報道概要

 政府は21日、農産物や食品の輸出拡大に向けた取り組みを一段と強化する方針を示した。世界的な和食人気を追い風に、果物やコメ、牛肉など国産農産物のブランド力を生かし、高付加価値商品として海外市場への販路拡大を目指す。

 政府や自治体は、鮮度を保ったまま輸送できる物流体制の整備や、現地の消費者ニーズに合わせた販売戦略の支援を進める考えだ。アジアを中心とした富裕層の需要を取り込み、日本産農産物の輸出額拡大につなげたい考えである。

 国内では人口減少や高齢化により農産物の需要縮小が見込まれる中、輸出拡大は農業所得の向上や地域経済の活性化につながる成長戦略の柱の一つと位置付けられている。品質の高さや安全性に加え、日本ならではの食文化を付加価値として発信し、海外市場で競争力を高められるかが今後の課題となる。

2016年7月当時の背景

2016年当時、日本の農業は人口減少や高齢化による国内市場の縮小という課題に直面していました。一方で、2013年に和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたことをきっかけに世界的な日本食ブームが広がり、海外の日本食レストランは約8万9千店まで増加していました。

こうした追い風を受け、政府は農林水産物・食品の輸出を成長戦略の柱に位置付け、2015年の輸出額は過去最高となる7,451億円を記録しました。さらに、2020年までに輸出額1兆円の達成を目標に掲げ、高品質な和牛や果物、コメ、日本酒などを日本ブランドとして海外へ売り込む取り組みを本格化させました。

国内需要だけでは成長が見込みにくい中、農産物を「食材」だけでなく「日本文化」として世界へ発信し、新たな収益源を生み出そうとする期待が高まっていました。

2026年現在の状況

2026年現在、日本の農林水産物・食品の輸出は大きく成長しています。2025年の輸出額は過去最高となる1兆7,005億円を記録し、2015年の7,451億円から約2.3倍に拡大しました。牛肉やコメ、緑茶、ブリなどは過去最高の輸出額を更新し、世界的な和食人気や訪日外国人の増加が追い風となっています。

輸出先では米国が2,762億円で最大となり、香港、台湾、中国が続きました。一方で、政府が掲げていた「2025年までに2兆円」という目標には届かず、供給力の確保や輸出先の多角化が課題として残っています。また、中国による日本産水産物の輸入規制や各国の関税政策など、国際情勢が輸出に与える影響も大きくなっています。

農産物を売るのか、食文化を売るのか

和食ブームを追い風に、日本酒や和牛、抹茶など日本の農産物・食品の輸出は着実に拡大しています。しかし、現在の課題は、個々の商品を輸出することに重点が置かれ、その商品が持つ文化や体験まで十分に価値として提供できていない点です。例えばワインは、ワイングラスやチーズ、ワイナリー観光などを含めたライフスタイルとして世界に定着し、高い付加価値を生み出しています。

一方、日本酒も切子や漆器、酒器、和食との組み合わせ、酒蔵見学などを一体的に発信できれば、酒そのもの以上の価値を提供できます。農産物を単体で売るだけでは価格競争に巻き込まれやすい一方、工芸品や観光、食文化まで含めたブランドとして展開すれば、一つの商品から生まれる経済効果は大きく広がります。今後は「農産物の輸出」から、「日本の食文化そのものの輸出」へと発想を転換し、体験価値を含めたブランド戦略を構築することが求められています。

10年後の未来

和食ブームをきっかけに、日本の農産物や食品は世界で一定の評価を得るようになりました。しかし、今後の競争力を左右するのは品質だけではありません。日本製品は「高品質で壊れにくい」「安心して使える」といった信頼性では高く評価される一方、その商品を通じて得られる体験やライフスタイルの提案では欧米諸国に後れを取る場面も見られます。

農産物も同様に、食材そのものを輸出するだけでは付加価値に限界があります。酒器や食器、工芸品、観光、和食文化まで含めた「日本らしい体験」を一体として発信できれば、農産物は単なる商品ではなく、日本文化への入口となります。これからは「品質の高さ」で選ばれるだけでなく、「その商品を手に入れることでどのような体験ができるのか」を世界へ提案できるかが、日本の農産物輸出の成長を左右する重要な鍵となるでしょう。