「温暖化で集落移転へ アラスカ先住民が決断」「海岸侵食深刻化、600人の村が移転を選択」
2016年8月20日の報道概要
米アラスカ州北西部の先住民集落シシュマレフで、地球温暖化などによる海岸侵食や洪水への対策として、集落を島から本土側へ移転する方針が決まった。シシュマレフはベーリング海峡に近いサリシェフ島にあり、海岸線の侵食が進み、住宅やインフラへの被害が深刻化している。
住民は16日、現在地にとどまって防護するか、近隣の本土側へ移転するかを投票で決め、移転が多数を占めた。人口約600人の集落全体を移す計画で、米陸軍工兵隊などは移転費用を1億~2億ドル程度と見積もっている。
一方、移転先では生活や狩猟、漁業など従来の暮らしを維持できるのか、巨額の費用をどう確保するのかといった課題が残されている。今回の決定は、気候変動によって居住地そのものを移さざるを得なくなる可能性を示す事例として注目されている。
2016年8月当時の背景
シシュマレフは幅約400メートル、長さ約4.8キロの細長いバリアー島に位置し、海岸侵食や永久凍土の融解、洪水などにさらされていました。波や海氷による侵食で海岸線が後退し、住宅や道路などが被害を受けてきました。米国政府の資料では、アラスカの先住民集落31カ所が洪水や侵食によって差し迫った脅威にさらされており、シシュマレフの移転費用は1億~2億ドルと推計されていました。
実は移転論議は2016年に始まったものではありません。1973年と2002年にも住民投票で移転が支持されましたが、資金不足や候補地の永久凍土などの問題から実現しませんでした。その後、2016年に移転候補地の調査が行われ、住民は「現在地を守る」か「新しい場所へ移る」かを選択することになりました。
2026年現在の状況
2016年の住民投票では移転が選ばれ、その後、移転候補地としてWest Tin Creek Hillsが選定されました。しかし、10年後の現在も集落全体の移転は完了していません。移転に向けた計画や資金確保の取り組みが続く一方、現在地の道路などのインフラについても、侵食への対策が進められています。
一方、現在地の環境も改善しているわけではありません。2024年のアラスカ先住民医療関連機関の報告では、海岸侵食によって住宅の移動を余儀なくされたほか、2019~2022年にはごみ処理場や下水処理施設につながる道路が繰り返し被害を受けています。現在地を守るためだけでも約1億ドルが必要とされており、「移転するか、残るか」のどちらを選んでも巨額の費用が必要な状況です。
引っ越すほどではない でも、住み続けられない
これまでも地球は寒冷化と温暖化を繰り返し、そのたびに海岸線は変化し、そこに暮らす人々も環境に合わせて住む場所を変えてきたはずです。海が近づけば少し内陸へ移り、土地が使いにくくなれば別の場所へ移る。そうした変化は、長い時間をかけて人間の暮らしの中に組み込まれてきました。
しかし、シシュマレフの問題は、その変化の時間軸にあります。海岸線が数百年かけてゆっくり変化するのであれば、家を建て替えるときに少しずつ場所を変えるなど、集落も自然に姿を変えていけます。一方、津波のように一気に町が壊れれば、国が復旧や移転を支援することにも納得しやすいでしょう。
シシュマレフのようなケースは、その中間にあります。「今すぐ逃げなければならない」ほどではない。しかし、住宅や道路などを何十年も使い続けるには、環境の変化が速すぎる。「引っ越すほどではないけれど、このままではいずれ引っ越さなければならない」という状態です。つまり、温暖化によって生じているのは、単なる自然環境の変化だけではなく、環境の変化の速度と、人間の暮らしやインフラが変化する速度とのずれなのかもしれません。
10年後の未来
人間はこれまで、気候や海岸線が変わるたび、その変化に合わせて住む場所を変えてきました。変化がゆっくりなら、家を建て替えるときに少し場所を移したり、世代が変わる中で集落の形を変えたりできます。
ところが、環境の変化が早くなれば、対応が難しくなります。次の世代の話だと思っていたら、実は自分の世代の話だった。かといって、津波のように国の支援が必須なほど、一気に町が失われるわけでもない。シシュマレフの問題は、個人の問題なのか国の問題なのかがあいまいな、これまで人間があまり経験してこなかったケースなのかもしれません。
湯の温度変化がゆっくりすぎて気づかないことのたとえを、「茹でガエル」ということがありますが、気候の変化が早すぎて、「もう無理だ!」と住む土地から逃げ出す「茹で人間」がもうすぐ世界各地で現れるかもしれません。
