「任天堂、マリナーズ株を660億円で売却 筆頭オーナーから退く」「任天堂、米大リーグ球団の保有株を大幅売却 10%は継続保有」
2016年09月02日の報道概要
任天堂は、米大リーグ・シアトル・マリナーズの運営会社の持ち分の大部分を6億6100万ドル(約660億円)で売却した。任天堂は1992年から同球団の筆頭オーナーを務めてきたが、今回の売却により筆頭オーナーから退き、保有比率は10%となる。
売却は米大リーグ機構の承認を経て8月19日に完了した。球団の経営権は既存の共同オーナーらに移り、任天堂は引き続き少数株主として球団との関係を維持する。
任天堂は1992年、シアトルから球団が移転する可能性が高まった際、当時社長だった山内溥氏が地元からの要請を受け、個人で資金を出して球団の筆頭オーナーとなった。その後、2004年に山内氏の持ち分が米国任天堂に移されていた。
2016年09月当時の背景
任天堂がマリナーズの筆頭オーナーとなったきっかけは、ゲーム事業とは直接関係のない、シアトルという地域とのつながりでした。1990年代初め、マリナーズは移転の可能性に直面しており、シアトル地域に本社を置く米国任天堂にも球団存続への協力が求められました。当時の山内溥社長は、米国で事業を展開できていることへの恩返しと地元への貢献を理由に、1992年に球団の過半数を取得しました。
その後、マリナーズはシアトルに定着し、日本人選手との関係も深まりました。2001年にはイチロー選手が加入し、任天堂とマリナーズの関係は日本でも広く知られるようになりました。2013年に山内氏、2015年に岩田聡氏が亡くなり、2016年には長年球団経営を担ったハワード・リンカーン氏も日常的な経営から退くことになりました。こうした節目も、今回の売却の背景にありました。
2026年現在の状況
任天堂は2016年にマリナーズの経営権を手放しましたが、球団との関係そのものは終わりませんでした。任天堂は現在も運営会社の10%を保有しており、2016年の売却後も少数株主として残っています。一方、球団の経営はシアトルの実業家ジョン・スタントン氏を中心とするオーナーグループに移り、任天堂が1992年から担ってきた筆頭オーナーとしての役割は終了しました。
その後も、任天堂とマリナーズの結びつきは続いています。2025年には任天堂が球団史上初のユニフォーム袖スポンサーとなり、ホーム用ユニフォームには任天堂のロゴ、ビジター用にはNintendo Switch 2のロゴが入る形で、30年以上続く関係が新たな形で表れました。マリナーズ側も、任天堂との関係を1992年以来の長い歴史として位置づけています。
2026年現在、任天堂は「球団を所有する会社」ではありません。しかし、シアトルに球団を残すために始まった関係は、少数株主、スポンサーという形に姿を変えながら続いています。2016年の売却は、任天堂とマリナーズの関係の終わりというより、「所有する関係」から「支える関係」への転換だったと見ることができそうです。
MLBでは異例だった「任天堂とマリナーズ」
MLBの球団は、個人や一族、投資家グループなどが所有する形が一般的で、大企業、それも海外の企業が球団を所有するケースは異例です。任天堂によるマリナーズの所有も、最初から企業として始まったものではありません。1992年、当時の任天堂社長だった山内溥氏が個人資産を投じて球団の経営権を取得し、その後、持ち分が米国任天堂へ移されました。結果として「任天堂がマリナーズを所有する」という形になりましたが、その出発点には山内氏個人の判断がありました。
ところで、球団を買うとなると、スポーツが好きだからとか、ビジネスとして、と思われるかもしれませんが、山内氏がマリナーズを所有した理由は、「野球が好きだから」でも、「任天堂の商品を売るために買った」わけでも、「球団経営で儲けるために買った」わけでもありません。そして2016年の売却も、少なくとも任天堂が公表した理由は、財政難や利益確定ではありません。球団がシアトルに残ることが確実になり、所有を続ける当初の役割が薄れたことで、経営権を地元のオーナーグループへ移す形になりました。
日本人にとっては「任天堂とマリナーズ」はなじみ深い組み合わせですが、当のアメリカ人から見れば、海外のゲーム会社が大リーグ球団を所有し、球団を自社のために利用することもなく、地域に残すという役割を終えると経営権を手放すという関係は、少し変わったものに映ったかもしれません。
10年後の未来
プロスポーツの世界では、選手も球団オーナーも、常に入れ替わっていきます。先月4日には、ブルージェイズのダルトン・バーショが試合直前にアストロズへのトレードを知らされ、球場内を歩いて新しいチームのクラブハウスへ移動。その日のうちに、数時間前まで所属していたブルージェイズと対戦しました。昨日まで応援していた選手が、今日には相手チームのユニフォームを着ている。ファンにとっては少し不思議な光景ですが、プロスポーツではそれも現実です。
球団経営も同じで、オーナーが変わることは珍しくありません。最近では、ドジャースのオーナー、マーク・ウォルター氏をめぐっても、金融事業の問題を背景に球団売却のうわさが浮上しました。ただし、ウォルター氏側はドジャースを売却する予定はないと明言しています。スポーツチームは、選手にとってもオーナーにとっても、ある意味では移動する資産なのかもしれません。そう考えると、任天堂とマリナーズの24年間は、少し不思議な時間だったようにも見えます。所有の形は変わっても、関係そのものは長く残りました。
もしかすると今日、ある選手を応援しようと思って試合を見ると、敵のユニフォームを着ていることもある(笑)。そんな流動的な世界だからこそ、何十年にもわたって変わらない関係には、数字だけでは測れない何かが残るのかもしれません。
