「東京大学など、透明な「発電する窓」につながる新材料を開発」「紫外線を防ぎながら発電、透明太陽電池の実現に期待」

2016年9月7日の報道概要

東京大学物性研究所などの研究グループは、異なる酸化物を組み合わせた構造を利用し、光を受けた際に生じる電圧を制御することに成功したと発表した。

研究では、チタン酸ストロンチウムの基板上に、数原子層の厚さのルテニウム酸ストロンチウムを成長させた構造を作製。大型放射光施設「SPring-8」で測定したところ、膜の厚さによって電子の状態や光に対する応答が変化することが確認された。さらに、この構造では光に対する応答が大きく高まることも分かった。

研究グループは、この材料が紫外線を吸収しながら、構造自体は人の目には見えないほど薄いことから、将来的には紫外線から室内を守りながら発電する「窓」など、新しい機能を持つ製品への応用が期待できるとしている。

2016年9月当時の背景

太陽光発電は、住宅や工場などの屋根に太陽電池を設置する方式が中心でした。一方、都市部では建物の屋根だけでなく、壁面や窓など、これまで発電に利用しにくかった場所を活用することが課題となっていました。

この時期には、従来のシリコン系太陽電池とは異なる薄膜型や有機系の太陽電池も研究されており、軽量化や設置場所の拡大が進められていました。2016年には、山形大学などが開発を進める透明な有機薄膜太陽電池を使った「スマート発電ウィンドウ」が実証施設に導入され、透明タイプで約2%の発電効率、1日平均約3Whの発電量が報告されています。

2026年現在の状況

2026年現在、「発電する窓」というアイデアは、2016年とは異なる材料や方法によって研究が続いています。

例えば2024年には、大阪大学などが、人間の目には見えない赤外光を利用して発電する透明な太陽電池を開発。可視光を通すことで、窓ガラスへの利用を目指し、2030年の発電する窓ガラスのサンプル出荷を目標にしています。

さらに2026年8月には、大阪大学、東京大学、青山学院大学、artienceなどの共同研究グループが、目に見えない近赤外光を利用する無色透明な有機太陽電池を開発しました。可視光をほとんど吸収せず、建物や自動車の窓への応用が期待されています。

一方、2016年の記事で紹介されたSrRuO₃/SrTiO₃の研究そのものは、「窓」という製品になったわけではありません。現在も同じ材料構造が光機能デバイスの基礎研究に利用されていますが、2026年現在、実用化に向けて進んでいるのは、別の材料や方式による透明太陽電池の研究開発です。

科学技術という鉱山

科学技術の研究成果を伝えるニュースを見ていると、まるで新しい金塊が見つかったように感じることがあります。「こんなことができました」「新しい材料を開発しました」と聞けば、すぐにでも世の中で使われそうに思えてしまいます。でも、研究成果には、掘り出した時点ですぐ価値を持つ金塊のようなものもあれば、そこから磨いたり加工したりしなければ価値を引き出せないダイヤの原石のようなものもあります。

「発電する窓」は、おそらく後者です。2016年に見つかったのは、すぐ商品になる完成品ではなく、これから可能性を引き出していくための原石でした。その後には、性能を高め、実際の窓として使えるようにし、大きな面積で作り、長く使えるようにし、さらに価格を下げるという、「磨く」工程が待っています。

研究成果がニュースになった瞬間は、その長い道のりの始まりにすぎません。時間をおいて振り返るとこで、かつて見つかった原石が、その後どこまで「加工」されたのかが見えてきます。

10年後の未来

2016年に報じられた「発電する窓」は、残念ながら2026年になっても、私たちの身近な製品として実用化されるまでには至っていません。ただ、10年前には「原石を見つけた」という程度だったものが、今では2030年という具体的な目標が示され、サンプルという形にするところまで未来の輪郭が見えてきました。

原石が見つかれば、それを磨き、カットし、商品にするまでには時間がかかります。2030年にその「カット」が実現したとして、その先には本当の商品化が待っています。果たして2036年、もう一度このニュースを振り返ったとき、発電する窓は宝石店のショーケースに並んでいるのでしょうか。