「フィリピン麻薬対策、国連が懸念 超法規的殺人の停止を要求」「ドゥテルテ政権の強硬策に国連が警告 麻薬撲滅で多数の死者」
2016年8月18日の報道概要
フィリピンのドゥテルテ大統領が進める違法薬物対策をめぐり、国連が懸念を強めている。就任直後から警察などによる取り締まりが強化され、薬物使用者や密売人とされる人々が相次いで死亡しているためだ。
国連の専門家らは17日、フィリピン政府に対し、薬物犯罪の容疑者らに対する超法規的な殺害をやめるよう求めた。5月10日の大統領選後から8月11日までに、薬物対策に関連して850人以上が殺害されたとの情報も寄せられている。
これに対しドゥテルテ大統領は、国連による調査を「内政干渉」と批判。17日の警察記念行事では、国連の調査団が入国した場合には厳しく対応する姿勢を示し、警察に対しても薬物撲滅の取り組みを続けるよう求めた。
2016年8月当時の背景
2016年5月の大統領選で勝利したドゥテルテ氏は、犯罪や薬物を3~6カ月で撲滅すると訴え、6月30日の就任後、強硬な取り締まりを急速に進めていました。7月1日から8月15日までに、薬物対策に関連して899人が死亡し、国家警察はその多くを調査中の事案として国会に報告しています。
一方、国連などは、犯罪対策そのものではなく、裁判を経ずに容疑者を殺害する「超法規的殺人」が広がっていることを問題視していました。国連の専門家は8月、5月10日以降に850人以上が殺害されたとの情報を示し、警察だけでなく民間人にも殺害を促す発言があったと指摘しています。ドゥテルテ氏は強硬姿勢を崩さず、麻薬撲滅を優先する政府と、人権や法の手続きを重視する国際社会との対立が深まっていました。
2026年現在の状況
ドゥテルテ政権の麻薬戦争は、2016年当時の一時的な強硬策では終わりませんでした。国連は2020年、公式統計だけでも2016年の作戦開始以降、少なくとも8,663人が死亡したと報告し、実際の犠牲者数はその3倍を超える可能性があると指摘しました。
ドゥテルテ氏の後を継いだマルコス政権は、前政権より殺害を抑える姿勢を示していますが、麻薬取締りに伴う死者や人権侵害をめぐる問題は残っています。さらに2025年3月、国際刑事裁判所(ICC)はドゥテルテ氏に対する逮捕状を発行し、フィリピン当局が同氏を逮捕してICCへ移送しました。2026年現在、ICCでは人道に対する罪をめぐる手続きが続いており、10年前に国連が懸念を示した問題は、国際的な司法手続きへと発展しています。
毒を以て毒を制す?
2016年当時、フィリピンでは深刻な麻薬問題に対し、ドゥテルテ大統領が「強い手段で一気に解決する」という政治を進めました。麻薬という社会の「毒」を取り除くために、強い言葉や強硬な取り締まりという、別の「毒」を使うようにも見えます。こうした政治は、問題をすぐに解決してくれそうな分かりやすさがあり、従来の政治に不満を持つ人にとって強い魅力になります。
しかし、強い手段には副作用もあります。麻薬を取り締まるという目的が正しくても、どこまで強制力を使ってよいのか、犯罪者と疑われただけの人をどう扱うのかという問題が生まれます。実際、ドゥテルテ氏はその後、麻薬対策をめぐる殺人などについて人道に対する罪の疑いでICCの捜査対象となり、2025年には逮捕・移送されました。まだ有罪と確定したわけではありませんが、「問題を解決するための強さ」が、別の問題を生み出す可能性を示しています。
麻薬を制するために、別の「毒」を使う。その毒は、果たしてどこまで許されるのでしょうか。
10年後の未来
フィリピンやアメリカに限らず、多くの国ではこれまで、犯罪や貧困、移民などの問題に対して、法律の範囲内でどう解決するかが模索されてきました。しかし近年は、「そのやり方は合法なのだろうか」と思ってしまうような強硬な主張も、各国で目立つようになっています。
背景には、「普通のやり方では何も変わらない」という不満があるのかもしれません。「それでは甘い」「もっと強く」「もっと早く」。そうした声の先には、多少の無理や犠牲があっても、自分たちの人生を一気に変えてくれる政治家を求める気持ちがあります。
それは、問題を抱える社会にとって、ある意味では自然な願いなのかもしれません。ただ、強い手段には強い副作用もあります。また、目的が正しくても、手段まで正しいとは限りません。政治の「効き目」を求めるあまり、もっと強いものを求めるようになる。それが「政治の麻薬」にならなければいいのですが。
