「安倍首相、TICADで『自由で開かれたインド太平洋』構想を表明」「アジア・アフリカを海で結ぶ 法の支配と自由を重視」
2016年8月27日の報道概要
ケニアの首都ナイロビで27日、第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)が開幕し、安倍晋三首相が基調演説を行った。安倍首相は、太平洋とインド洋、アジアとアフリカの結び付きを重視し、「自由で開かれたインド太平洋戦略」を発表した。
安倍首相は、太平洋とインド洋、アジアとアフリカの結び付きを強めることで世界の安定と繁栄をもたらすとの考えを示し、自由、法の支配、市場経済を重視した地域づくりを進める方針を表明。アジアとアフリカを結ぶ海を平和でルールに基づく海にするため、アフリカ諸国と協力していく考えを示した。
2016年8月当時の背景
2010年代半ばのアジアでは、中国の経済力や海洋進出が急速に拡大していました。南シナ海では中国による人工島の造成などをめぐって周辺国との緊張が高まり、日本にとっても海上交通路の安全や国際的なルールをどう守るかが重要な課題となっていました。
日本は2013年に「積極的平和主義」を掲げ、米国、オーストラリア、インドなどとの連携を強めていました。2016年のTICAD VIでは、アジアとアフリカを海上交通やインフラで結び付ける考えが示され、2016年から3年間で約1,000万人の人材育成や、官民合わせて約300億ドル規模のアフリカへの投資も表明されました。
こうして見ると、当時の「自由で開かれたインド太平洋」は、安全保障だけを前面に出した構想というより、経済、インフラ、法の支配などを通じてアジアとアフリカをつなぐ外交構想として提示されたものでした。
2026年現在の状況
「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」は、その後、日本の外交政策を代表する考え方の1つとして定着しました。2019年には米国、豪州、インド、日本の4カ国による「Quad」の協議が外相級に発展し、海洋安全保障やインフラ、サイバー分野などで協力が進みました。
ASEANも2019年に「インド太平洋に関するASEANアウトルック」を採択し、開かれた地域、国際法、ASEANの中心性などを重視する考え方を示しました。日本はこの構想との連携も進めています。
2026年現在、FOIPは日本だけの構想にとどまっていません。日本、米国、豪州、インドによるQuadは現在も活動を続け、海洋安全保障だけでなく、重要技術、経済安全保障、人道支援などへ協力分野も広がっています。
ニュースの構造
2016年に日本が打ち出した「自由で開かれたインド太平洋」は、太平洋とインド洋を一つの地域として捉え、アジアとアフリカを海で結ぶ構想でした。その背景には、中国が「一帯一路」や「海のシルクロード」を通じて港湾やインフラへの投資を広げ、インド洋にも影響力を伸ばしていたことへの警戒があります。スリランカのハンバントタ港などは、中国の港湾網拡大を象徴する存在として注目されました。日本はこれに対し、自由な航行や法の支配、透明性のあるインフラ整備などを重視する別のネットワークを構想しました。
その後、2018年には米国も「太平洋軍」を「インド太平洋軍」に改称しました。当時の米国防総省は、インド洋と太平洋のつながりが強まっていることや、インドの重要性が高まっていることを改称の理由として説明しています。 こうして日本発の「インド太平洋」という考え方は、米国の地域戦略にも取り込まれ、日米豪印の連携などへと広がっていきました。
ところが2026年、米国は再び「太平洋軍」へと名称を戻しました。担当地域や任務そのものが変わったわけではありませんが、10年前に「インド」を加えた米国が、今度はその言葉を外したことは、インド太平洋への関与が今後どうなるのかという懸念を生みます。米国の関心が実際に薄れたのかはまだ分かりません。ただ、2016年に日本が広げた「海の地図」を、米国が10年後もまったく同じように見ているとは限りません。
10年後の未来
中国は「海のシルクロード」を掲げた一方で、日本は「自由で開かれたインド太平洋」を掲げました。言い方は違っても、どちらも海をネットワークとして捉え、人や物が行き交う海洋ルートをつくる構想に見えます。ところが、中国と日本、それぞれが目指すものを「シルクロード」と「歩行者天国」と言い換えてみると、少し違って見えてきます。
かつてシルクロードを行くキャラバンには、盗賊などから身を守るための護衛がいました。道はあっても、安心して歩けるとは限らなかったからです。一方、歩行者天国で護衛を付けて歩く人は、セレブくらいなものでしょう。そこでは、護衛がいなくても自由に歩けることが当たり前です。
10年後のインド太平洋は、シルクロードと歩行者天国、どちらの姿に近づいているのでしょうか。海を行き交う船が、それぞれ自分の利益を求めて武装し、護衛を連れて進む「海のシルクロード」になるのか。それとも、誰もが安心して航行できる「海の歩行者天国」になるのか。10年後のインド太平洋が穏やかな凪であってほしいと願います。
