「無期転換ルール、企業へ周知開始」「有期契約、5年超で無期転換へ 厚労省が制度導入を支援」
2016年8月30日の報道概要
厚生労働省は30日、有期労働契約を繰り返し更新して通算5年を超えた場合、労働者の申し込みによって期間の定めのない契約に転換できる「無期転換ルール」について、企業への周知を進めると発表した。制度は2013年4月に施行されており、2018年度から無期転換の申し込みが本格化することを見据えた対応となる。
同省は8月31日、企業や労働者向けに制度の内容や導入方法を紹介する「有期契約労働者の無期転換ポータルサイト」を開設する。企業向けの相談やセミナー、モデル就業規則の作成なども進め、制度への対応を促す。
無期転換ルールは、同じ企業との間で有期契約を更新し、通算5年を超えた労働者が申し込めば、企業側が拒否できない仕組み。雇用の安定につなげる一方、企業にとっては契約社員やパートなどの雇用管理を見直す必要があり、制度開始から5年を前に準備が求められている。
2016年8月当時の背景
2010年代の日本では、正社員と比べて雇用が不安定になりやすい有期契約労働者の処遇が大きな課題となっていました。改正労働契約法では、同じ企業との間で有期契約が更新されて通算5年を超えた場合、労働者の申し込みによって無期契約へ転換できる仕組みが2013年4月から始まっています。
一方、制度の存在そのものが企業に十分知られているとはいえませんでした。厚生労働省が2016年4月に公表した資料では、2015年12月の調査で無期転換ルールの内容を「知らない」と答えた企業が4割を超えていました。有期契約労働者を雇用する企業では、何らかの形で無期契約に切り替える意向も広がっていました。
厚労省は2018年度からの本格化を前に、全国で208回の解説セミナーを開催するなど、企業への周知や導入支援を進めようとしていました。
2026年現在の状況
無期転換ルールは現在も続いています。同じ企業との間で有期契約が更新され、通算5年を超えた場合、労働者が申し込めば無期契約に転換されます。企業は申し込みを拒否できず、原則としてそれまでの仕事内容や賃金などを引き継いだまま、契約期間だけが「無期限」に変わり、それ以外の労働条件は従来の契約が引き継がれます。
制度開始から5年を迎えた2018年度以降、実際に無期転換する労働者も出てきました。しかし、2020年のJILPT調査では、無期転換申込権が発生したが申し込んでいない人が14.8%、自身の権利の状態が「分からない」と答えた人が44.1%でした。
また、無期転換は「正社員になる」こととは別の制度です。契約期間が「1年」などの有期契約から「期間の定めなし」に変わっても、仕事内容や勤務時間、賃金などが自動的に正社員と同じになるわけではありません。
2021年の労働者調査では、無期転換した際に変わったのは「契約期間だけ」と答えた人が72.2%に上りました。つまり、5年間働いた先に待っていたのは、正社員への登用というより、「同じ働き方のまま、契約だけが無期限になる」というケースが少なくなかったのです。
「雇用の安定」と「雇用の固定」
無期転換ルールで労働者が手にしたものを簡単に言えば、「契約期間が終わったから」という理由だけで雇用を終えられることがなくなる「安定」です。しかし、毎年の契約更新におびえる必要がなくなる一方、無期になったからといって、正社員になるわけでも、賃金や待遇が上がるわけでもありません。
社会が発展し、物価が上がり、結婚や子育てなどで生活に必要なお金が増えていけば、同じ仕事、同じ賃金で働き続けることは、雇用が安定していても生活が安定しているとは限りません。むしろ、数字だけ見れば「安定」というより「固定」に近いようにみえます。
10年後の未来
無期転換によって「仕事を失いにくくする」ことはできても、「生活が豊かになる」ことまで保証されているわけではありません。これは、国全体に置き換えてみると、もっと分かりやすくなります。
バブル崩壊後の日本は「失われた30年」と呼ばれてきました。かつて日本の賃金は中国や韓国より高く、豊かな国として見られていました。しかし、日本の賃金が長い間、大きく上昇しない「安定」を続けている間に、周辺国の賃金や経済は伸び、日本が相対的に豊かな国とは言いにくくなりました。
失業率が低く、仕事そのものを失う不安が小さいことは、もちろん大切です。でも、仕事があることと、その仕事によって豊かな未来を描けることは同じではありません。
下りエスカレーターに立ち止まっている人を想像すると分かりやすいかもしれません。その人は「ずっと同じ場所にいるから、安定している」と思っている。でも、上を目指すなら、本当は歩き続けなければならない。社会も同じで、変わらないことが必ずしも安定とは限りません。
