「『アベノミクス最大の試金石』 最低賃金全国平均25円引き上げ」「労働者の待遇改善の期待が高まる一方、中小企業の負担増への懸念も」

2016年7月23日の報道概要

 厚生労働省の中央最低賃金審議会は23日、2016年度の都道府県別最低賃金について、全国平均で時給を25円引き上げる目安を答申した。引き上げ額は現行制度となった2002年度以降で最大となり、全国平均の最低賃金は初めて820円台となる見通しだ。

 政府がデフレ脱却と賃金上昇を目指す政策を進める中、最低賃金の大幅な引き上げは個人消費の拡大や景気の好循環につながることが期待されている。一方で、人件費の負担増を懸念する中小企業や小規模事業者からは、経営への影響を不安視する声も上がっている。

 今後は各地方最低賃金審議会で地域ごとの最低賃金額が決定される見通しで、賃上げによる景気回復効果と、中小企業の経営への影響とのバランスが課題となりそうだ。

2016年7月当時の背景

2016年当時、日本経済はアベノミクスによるデフレ脱却を目指す中で、「企業収益の改善を賃金上昇、消費拡大へつなげる好循環」の実現が大きな政策課題となっていました。政府は春闘で企業に賃上げを要請する「官製春闘」を進めるとともに、最低賃金についても年率3%程度の引き上げを続け、将来的に全国平均1,000円を目指す方針を掲げていました。

こうした中、中央最低賃金審議会は2016年度の引き上げ目安を、全国平均では過去最大となる25円の引き上げを答申しました。全国平均の最低賃金は823円となる見通しで、低所得者層の所得向上や個人消費の拡大が期待されました。

一方で、中小企業は全企業の99%を占め、日本の雇用を支える存在です。地方では人件費の上昇分を価格へ転嫁しにくい企業も多く、「賃上げをしたくても利益が追いつかない」との懸念が広がりました。

2026年現在の状況

2026年現在、日本の最低賃金は大幅な引き上げが続き、全国加重平均は2016年度の823円から1,121円へと約36%上昇しました。2025年度には66円引き上げられ、現行制度で過去最大の上昇幅を記録しています。地域間の格差は依然としてありますが、東京都は時給1,226円、最低額の地域でも1,023円となり、すべての都道府県で1,000円を超えました。

一方で、最低賃金引き上げを巡る議論は続いています。人手不足を背景に賃上げは定着しつつあり、大企業では2025年春闘の平均賃上げ率が5.25%と34年ぶりの高水準となりました。しかし、中小企業は人件費の増加や価格転嫁の難しさに直面しており、政府が掲げる「2020年代に全国平均1,500円」という目標については、実現時期の見直しも議論されています。最低賃金は、単なる労働政策ではなく、物価上昇への対応や地方経済、中小企業の競争力を左右する日本経済全体の重要な政策課題となっています。

賃金は誰が上げてくれるのか?

日本で賃金が上がりにくかった背景には、経済だけではなく、社会全体の構造が大きく影響していました。欧米では、労働者は賃金や待遇に不満があれば転職や労使交渉を通じて改善を求めることが一般的で、市場原理によって賃金が動きやすい環境があります。

日本では終身雇用や年功序列が長く定着し、「真面目に働き続ければ、会社がいずれ評価してくれる」という価値観が社会に根付いてきました。そのため、労働者は積極的に待遇改善を求めるよりも会社との信頼関係を重視する一方、企業側は人件費を抑えながら利益や内部留保を積み増す経営を続けてきました。

日本は市場の力だけでは賃金が上がりにくく、近年の賃上げも人手不足や物価高に加え、政府による最低賃金の引き上げや賃上げ要請が大きな役割を果たしています。

10年後の未来

私たちは「景気が良くなれば」「物価が上がれば」「政府が最低賃金を引き上げれば」と、賃金が自然に上がることを期待しがちです。しかし、賃金は誰かの判断によって決まるものです。その「誰か」は会社かもしれません。政府かもしれません。市場かもしれません。そして、自ら交渉し、転職し、価値を示す自分自身である場合もあります。

もちろん、賃上げ交渉のたびにストライキで社会が止まってしまうような働き方が、日本にとって理想だとは言えません。会社との信頼関係を重視する日本の働き方は、社会の安定を支えてきた側面もあります。

ただ一つ、考えてみたい問いがあります。
「自分の賃金を上げることができるのは、誰なのか」そして、「その誰かに自分は働きかけているのか」
その「誰か」はもちろん自分自身かもしれません。