「米で特許、再現成功で『常温核融合』、再評価が加速」「わずか数百度で核反応、実用化へ研究競争」
2016年09月09日の報道概要
1989年に発表され、再現実験の失敗などから科学界で否定的な見方が広がった「常温核融合」をめぐり、再評価の動きが出ている。東北大学では、金属に水素を取り込ませることで、核反応によるものとされる過剰な熱が発生する現象について研究が進められている。
米国では2015年に関連技術の特許も成立した。従来の核融合は非常に高い温度を必要とするのに対し、常温核融合は比較的低い温度で反応が起きるとされる。実用化すれば、従来とは異なる新たなエネルギー源となる可能性があり、長年議論が続いてきた研究に再び注目が集まっている。
2016年09月当時の背景
常温核融合は1989年、米ユタ大学の研究者が、パラジウム電極と重水素を使った実験で核融合によるとみられる過剰な熱を確認したと発表したことから世界的な注目を集めました。しかし、その後に行われた各国の研究機関による追試では安定して再現できないケースが多く、否定的な結果が相次ぎました。
その一方で研究を続ける研究者もおり、2000年代以降は「低エネルギー核反応」や「凝縮系核反応」といった名称で研究が継続しています。2015年には東北大学に企業と大学による共同研究部門が設けられ、従来とは異なる金属の微細な構造などを利用した研究が進められていました。
2026年現在の状況
その後も研究は続いていますが、「常温核融合が実証された」という科学界の合意には至っていません。2019年にはGoogleが複数の研究機関と再検証を行いましたが、常温核融合を示す証拠は得られませんでした。 一方、日本では東北大学と共同研究を進めてきたクリーンプラネットが、現在「量子水素エネルギー」と呼ぶ技術について、将来の実用化を目指した研究開発を続けています。
2020年には関連する米国特許も成立し、2025年には東京都から試作機開発に10億円の助成を受け、2026年には約5億円の資金調達を発表しました。研究を続ける企業では、特許取得や試作機の開発など、将来の実用化を目指した取り組みが続いています。ただし、現時点で常温核融合が科学的に実証され、実用的なエネルギー技術として確立したとはいえません。
大勢が否定しても、消えない研究
現在の原子力発電は核分裂を利用しています。一方、核融合は燃料の質量あたりに取り出せるエネルギーが非常に大きく、実現すれば巨大なエネルギー源になる可能性があります。ただし、地上で核融合を起こすには非常に高い温度が必要です。もし、それが常温に近い環境で可能になれば、エネルギーの常識を変えるほどの技術になります。
それゆえ、常温核融合は注目されました。しかし、1989年の発表以降、再現性や核反応を示す証拠をめぐって厳しい検証を受け、現在も科学界の大勢が認める技術にはなっていません。それでも研究を続ける人がいるのは、実現する可能性が高いと考えられているからというより、「もし本当なら」得られるものがあまりにも大きいからです。
その意味では、常温核融合は「現代の錬金術」ともいえます。錬金術師が、別の物質から金を生み出せる可能性を追い続けたように、常温核融合もまた、科学的な確証が得られていない一方で、もし実現すればエネルギーの常識そのものを変えてしまう。可能性の大きさが、研究を終わらせない理由になっています。
10年後の未来
今から10年後、常温核融合が実用的なエネルギー技術になっている可能性はありますし、原理的に不可能と結論付けられている可能性もあります。現時点では、そのどちらになるのかは分かりません。
ところで、科学の進歩は「できること」を見つけることだけではありません。錬金術が金を生み出せなかったことや、永久機関が実現できないことが分かったことも、科学の重要な成果でした。「なぜできないのか」を確かめることで、自然界には何が可能で、何が不可能なのかという境界が明らかになるからです。
実現できれば革命。実現できないことを証明できれば、それもまた進歩。その、どちらでもない「まだ分からない」状態を、いつまでも放置しないことも、科学の仕事なのかもしれません。そして、常温核融合という名前とは裏腹に、この問いに懸けてきた科学者たちの熱量だけは、決して常温ではありません。
